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東京都練馬区の歴史
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所在地 練馬区豊玉北1-7

 このお社は林稲荷神社とよばれています。このあたりは江戸から明治時代にかけて中新井村北於林と云われていました。「於林(おはやし)」とは、「御林(おはやし)」すなわち、江戸時代幕府要人が鷹狩や狩猟のために使用した林のことです。これが林稲荷神社の名の由来です。江古田川(旧中新井川)の南の中野区江古田3丁目にあった旧国立中野療養所の所も御林野であり、その東側にある東福寺には、将軍や御三卿(清水、一橋、田安家)の殿様が狩りに来たときに休息所とした御膳所がありました。
 神社の創建について、昭和15年(1940)に旧中新井1丁目町会(現在の豊玉第一町会)の方が著した林稲荷神社縁起には、およそ次のように記されております。
 「ある年干ばつがあり、農作物が収穫できなくなったため、少なからぬ村民たちが食糧を買うためのお金を得ようと、お林の木を伐って売り始めました。これを見て困ったのは、お上からこの林の管理を任せられていた村人、仁左衛門です。同じ村人のやることであるし、木を伐って売らねばならない事情を理解できるからです。すっかり困り果てて悩んでいたところ、ある晩、夢枕に稲荷大明神(宇気母知命)が二匹の白狐をつれて現れ、『この干ばつに苦しむのはこの地に良い水源が無いことである。この丘の崖下を浚い、数町北にある窪地を掘れば水が沢山得られるであろう』と告げられ、汗をびっしょりかいて夢から覚めました。これは不思議なことと思い、朝になってお林の中を探し回ったら、狐の棲家と思われる穴がみつかり、その部分だけ少し開けた穴の前の土地は、掃き清められたように平らで、そこには2、3匹の狐の足跡がありました。あれは正夢であったか、と驚いて、このことを百姓頭三郎左衛門に話し、村民7名と共に神のお告げのあった場所に井戸を掘りました。すると清水がこんこんと湧き出し、田畑が潤って農作物の収穫が得られようになり、木を伐る必要がなくなりました。村民たちが稲荷大明神に感謝の気持を込めて創建したのがこの社の起源であります。」
 このことがあったのは、寛文年間(1661~1673)の頃であったと言い伝えられていたそうですが、仁左衛門家が、その本家の平左衛門家から分家したのは、これより少し時代が下がるので、この出来事は寛文より少し後のことと考えられます。
 林稲荷神社と村民とを深く結びつける関係は、その後再び明治の世になって現れます。江戸幕府が大政奉還して瓦解し、お林が時の政府から林稲荷神社のある所を含めて、名主の岩堀伝内に払い下げられ、社殿が壊されることになりました。人々が社の無くなることを憂いていたところ、子孫の矢島三郎左衛門や矢島仁左衛門は、屋敷の周りで、悲しげに鳴く狐の声を耳にします。それを聞いて二人は、これは稲荷社の保存を狐が訴えているのだ、と思いました。そこで、昔、干ばつの時、稲荷大明神のお告げで助けられた言い伝えを思い出して、村民たちと相談し、二人を含め二十五人の者が境内社地を買い戻し、社も新しく造り替えてお祀りすることにしました。時に明治12年(1879)のことであります。
 以来、明治、大正、昭和と、林稲荷神社は旧中新井村住民を中心に維持管理されてきました。しかし、土地の区画整理(昭和10年〔1935〕~昭和15年〔1940〕)があって住民の家々と社が、交通量の多い目白通り(十三間道路)で分断されてしまったことや、第二次世界大戦(昭和16年〔1941〕~昭和20年〔1945〕)とその後の混乱期などのあおりを受けて、古くから社と縁のあった一部の子孫がこの地を離れてしまったことなどのため、林稲荷神社はだんだんと人々から忘れ去られてしまいました。社殿や鳥居などは朽ち果て、境内も荒れ果てたままの状態がずっと続いておりました。
 さいきんになって、旧中新井村東部地区(現在の豊玉上1丁目、豊玉北1、2丁目)の住民の人たちは、稲荷社の土地の歴史に根づいた由緒を知り、ここに林稲荷神社復興世話人会を組織して、この度、59年ぶりに境内を整備し、鳥居や社殿、庚申堂、水屋、狐像などを新たに造り、社を末永くお祀りしていくこととなりました。
 旧村民の間に伝えられた話は、郷土の歴史に関する理解を深める一助になると共に、林の木の保全の問題や、人と野生動物(狐)との交流など、現代人と自然との関係、環境問題を改めて考えさせる機会を持つことにもつながると思います。そのような気持を籠めてお参り頂けたら幸いです。
 平成11年(1999)2月初午 
 茨城大学名誉教授 矢島英雄 記
 林稲荷神社世話人会



 境内には『庚申塔』があります。
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